干潟の実験生態学

干潟の実験生態学

K・ライゼ:著 倉田 博:訳

B5判/200ページ/定価 本体3,800円+税
ISBN4-915342-17-1
(13桁:ISBN978-4-915342-17-2)

干潟には,泥中や岩上にすんでいたり,ときおり訪れるだけだったり,水中を移動したり…と,さまざまな状況にさまざまな種類の生物が出現する。これらの生物どうしは,あるものは餌,あるものは天敵,またあるものはお互いになにかを共有して利益を得る相手となる。
このような自然下にある生物群集の関係を確かめるために,生物学者はさまざまな実験計画を立てる。このとき客観的でなければならない実験は,実は観察対象にさりげなく影響を与えてしまう。それは,どのくらいになるのだろうか。
本書ではそのような影響をふまえて,誰にでもできる基本的な方法で生物群集の関係の解明を試みたもので,手法の解説や観察された事実を解説し,干潟における生物関係をまとめた書である。
生物どうしの関わりの解説は入門者にもイメージしやすく,これ1冊で干潟に隠されたさまざまな生物がいかに密接に関係しているかをみてとれるだろう。
●目次●

第1章 干潟の生態学研究とは
  • 干潟生態学研究のはじまり
  • 干潟の野外実験
第2章 潮汐,堆積物の生物分布
  • 潮汐と堆積物
  • 生物分布
第3章 潮間帯堆積物の生物化学
  • 鉛直方向の化学勾配
  • 巣穴と糞塊(巣穴;糞塊)
第4章 干潟堆積物内の生活様式
  • 低潮耐性,回避および選択性
  • 生物量と消費量
第5章 クーニックスハーフェンの干潟
  • 環境
  • 生物群集(長期的現象;マクロファウナ;経年変動;季節変化;生息量と分布;生産とエネルギー流)
第6章 方法上の問題点
  • 一般的な配慮
  • ケージング手法
第7章 大型魚類と鳥類の排除
  • マクロファウナへの影響(ケージの設置;捕食者の影響)
  • 植食者の影響
  • 底生動物への穏やかな影響(間欠的な餌の入手;密度に依存した餌の選択;再生可能な生体部分の切り取り;中間捕食者の捕食;底生動物のサイズ組成への影響;草食性の鳥類;結論)
第8章 エビ・カニ類と小型魚類による捕食
  • 捕食者の添加
  • 共同する捕食者達(ヤドカリ類とヒドロ虫類;互利益)
  • 捕食者の排除(泥質干潟でのケージ実験;網目を変えた排除囲い実験;メイオファウナに対する捕食実験;海草帯のケージ実験)
  • 潮間帯生育場における捕食実験(ケージの人為構造か捕食者排除の影響か;収容力以下のマクロファウナ;餌生物の避難場所;小型捕食者の優越性)
第9章 内在性底生動物の捕食
  • 干潟堆積物の肉食者
  • 捕食者の添加と除去
  • 干潟における多重捕食
第10章 餌生物の個体群動態と捕食圧
  • ヨーロッパザルガイCerastoderma edule(大きな生残率変動;生息場仮説;競争仮説;捕食仮説;長期生き残り)
  • 多毛類Arenicola marina(幼体の移動;個体群の大きさ)
第11章 マクロファウナによるメイオファウナの助長
  • 助長活動する二枚貝(バルチックシラトリガイMacoma balthicaに誘引されるメイオファウナ;二枚貝の実験的集合:堆積物環境の改善)
  • タマシキゴカイ科の巣穴のメイオファウナ(タマシキゴカイ科のArenicola marinaの巣穴;漏斗型くぼみと糞塚でのメイオファウナ;尾部立て坑のメイオファウナ;摂餌ポケット中のメイオファウナ;多毛類による園芸(gardening);砂質干潟のメイオファウナに対する巣穴の貢献)
  • Arenicola marinaの除去(実験手法;近傍効果;PhygospioZosteraの影響;渦虫類に対するコクガンの影響;緑藻類マット;続発する生物事象)
第12章 生物群集内の相互作用
  • 生物的過程での概念的階層性
  • 助長者の影響(宿屋;堆積物の安定性;堆積物の改良;園芸(gardening))
  • 消費者の影響(植食者;捕食者)
  • 競争(混み合いと空間的配置;対立種)
第13章 干潟の開放的生物群集
  • 生態学的ターンテーブル
  • 緩い種間関係(異種間関係;間欠性)
  • 捕食の主導性(予測;捕食調節の限界種の豊富さ)
参考文献
訳者に代わるあとがき
索引
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