イセエビの総合誌 −パックホースの視点から

イセエビの総合誌

John Booth:著/早川 康博:訳

B5判/218ページ・カラー/定価 本体3,800円+税
ISBN978-4-909119-18-6

 パックホース(Sagmariasus verreauxi,英名:packhorse,和名:カッチュウミナミイセエビ)とは,ニュージーランド北部沖と東オーストラリア中部沖の海域に生息し,イセエビ類のなかで最大になる種である。大きく成長するとその姿が荷物を積んだ馬のようにみえることからこの英名が付けられた。本書ではこのパックホースを中心に,イセエビ類を取り巻く深遠で興味深い世界を紹介する。
 本書はこれまで出版されていない,世界の全イセエビ類を網羅する総合誌であり,卵からフィロソーマ幼生・プエルルス幼生,稚エビ,そして成体にいたるまでの全生活史を取り上げ,分類学,生態学,生物地理学,解剖学,生理学,行動学などを紹介する。あわせて,漁業や漁獲量・資源量のこれまでの変化と現状,資源を守るための養殖業,また歴史や文化・調理方法など多岐にわたる話題を取り上げる。本書の内容は,一般の人々だけではなく,専門家にとっても有益なものとなるだろう。
 『Spiny lobsters: through the eyes of the giant packhorse』(John Booth著)の日本語版。

●目次と各章の紹介●


日本語版への序/はじめに

【第1章 イセエビの北帰行(胡馬北風に依る)】
パックホースを紹介し,途方もなく広範囲な移動行動を明らかにする。いくつかの他種イセエビ類もかなりの距離を移動するがパックホースほど遠距離ではない。

【第2章 パックホースとはいったい何者だろう?】
イセエビ類の一種としてのパックホースを知ることができる。パックホースの名前はどのようにして付いたのか? 十脚目甲殻類の世界でパックホースはどこに位置し,どこで進化してきたのであろうか?

【第3章 イセエビ類が生息する海域としない海域】
パックホースと近縁種の世界的分布には,イセエビ探査者による近年の先駆的努力が明らかにした重要な分布拡大の知見を含んでいる。

【第4章 奇妙な始まり】
イセエビ類の生活史初期は陸から見えない世界ではじまる。彼らは,ひじょうに独特な形をして弱い遊泳力しか持たない長期間の幼生期を過ごし,どのように沿岸に足場を確保するのであろうか?
 最終令フィロソーマ幼生の同定/プエルルス幼生の採取

【第5章 パックホースを間近で見る】
イセエビ類は呼吸,消化,再生産などよく知られたこれらすべての機能をうまく扱わなければならない。

【第6章 パックホースの日常業務】
若いイセエビ類はいかにして最初の数ヵ月を岩礁で生き延び,いかに速く成長し,いかに長生きし,何を食べ,何者に捕食され,どのように交尾するのであろうか?

【第7章 漁業の盛観】
マオリの人々は最初のヨーロッパ人が到着するずっと以前からイセエビ漁をしていた。ただし,大半の魚種の商業漁業が本当にはじまったのは,第二次世界大戦後であった。現在,世界の主要なイセエビ類漁業は乱獲状態と思われる。

【第8章 漁業の浮き沈みを管理する】
イセエビ漁業の現状は,人為規制のみならず自然過程にも関連している。最も高性能な資源評価方法さえも,自然過程の気ままな進行を反映するように体系的に収集されたデータを無視すれば,信用を落とすことになる。

【第9章 漁業の影響力】
イセエビ類の篭網は,トロール漁や刺し網漁に比べてかなり優しい漁法であるが,対象外の生物種にも影響を与える。開発から防御された保護区は,陸と同様に海においても不可欠である。

【第10章 育成する力】
養殖と増殖はともに,イセエビ類の生物量を漁場でも魚市場でも増やす可能性がある。

【第11章 利用方法】
初期生活期の危機を生き延びた数少ないイセエビ類は,その大半が包装され魚市場に出される結果となって,ついには食される。

おわりに/訳者あとがき/引用文献/本書で参照する学術用語/索引

[著者紹介]John Booth ニュージーランド国立水大気研究所(NIWA)元研究員。専門はイセエビ類全般。おもな研究は,フィロソーマ幼生の沿岸域における滞留と加入機構,プエルルス幼生の着底率に影響する要因分析で,プエルルス幼生の着底と後年の漁獲実績との相関関係や,イセエビ科の稚エビの生態学,行動学,移動についての論文を出すなど,さまざまな科学誌に広く論文を発表し,イセエビ類の漁業,資源管理,生物学に関する数冊の本の分担執筆にもあずかるなど,多くの論文や本の執筆者として世界的に知られる。
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