砂浜海岸の自然と保全

砂浜海岸の自然と保全

須田 有輔:編著

B5変形/口絵+約280ページ/定価 本体3,500円+税
ISBN978-4-909119-13-1

砂浜の環境と生態系が危機に面している
 波打ち際をはさんで,海側は波が砕けるあたり,陸側は砂丘がつくられるあたりまでを「砂浜」という。そこには豊かな生態系が形づくられるが,海岸侵食や環境破壊などにより,砂浜の環境そのもの,また生態系が危機に面している。地形や波などの物理的環境,物質循環などの化学的環境,底生生物や魚類などの生態,そして実際の保全活動や保全の意義など幅広く扱った。
 砂浜生態系のみを扱った日本で初めての書。
●目次●

はじめに

【第1章 砂浜生態学の概論】(須田有輔)
 1.1 砂浜海岸とは
 1.2 地形と砂浜タイプ
  1.2.1 砂浜断面に沿った地形と砂浜タイプ
  1.2.2 地形動態を表す指標
 1.3 砂浜のハビタットの多様性
  1.3.1 砂浜の主なハビタットと生物
  1.3.2 前浜の生物分布パターン
 1.4 砂浜の環境問題
 1.5 砂浜生態系の保全
  1.5.1 多様な海岸環境
  1.5.2 海岸事業への反映を意識した知見
  1.5.3 砂浜の生物調査における注意点
  1.5.4 砂浜生態系の広がり
  1.5.5 合意形成の大切さ
  1.5.6 市民研究者への期待

【第2章 砂質性海浜の特性】(西隆一郎)
 2.1 砂浜と海岸の範囲
 2.2 砂浜の形成機構
 2.3 砂浜を構成する底質の物理的性状
  2.3.1 底質の粒径
  2.3.2 底質の透水性
 2.4 砂浜の岸沖縦断地形
  2.4.1 平衡海浜断面形状
  2.4.2 砂浜地形の季節変動
  2.4.3 侵食・堆積予測のためのパラメーター
  2.4.4 短期間の汀線変動
 2.5 砂浜の平面形状と汀線変動
  2.5.1 河川流入や海食崖の侵食による平面形状の変化
  2.5.2 浜幅と海浜植生帯
  2.5.3 トンボロ地形
  2.5.4 バリアーアイランド
 2.6 人為的な理由による砂浜の平面形状変化
 2.7 砂浜にみられる波と流れ
  2.7.1 波とうねりの性質
  2.7.2 有義波
  2.7.3 浅水変形と砕波
  2.7.4 海浜流系
 2.8 砂浜の3次元地形・カスプ
 2.9 砂浜と砂浜生物を取り巻く環境−中長期スケールの視点
  2.9.1 土砂収支と土砂管理
  2.9.2 中長期的な気候変動と水温変動
  2.9.3 中長期的な環境変動と砂浜の侵食・堆積現象
  2.9.4 アカウミガメの上陸数の変動

【第3章 砂浜海岸の物質循環】(早川康博)
 3.1 物質循環の基礎
  3.1.1 砂浜海岸における物質循環の駆動要因
  3.1.2 砂浜海岸の地形
  3.1.3 砂浜海岸の主要構成物
 3.2 物質の運搬過程
  3.2.1 砂浜海岸における物質の運搬過程
  3.2.2 海底地下水湧出
  3.2.3 砂浜地下水
  3.2.4 再循環水
  3.2.5 間隙水の表面張力
  3.2.6 栄養塩類の運搬過程
 3.3 物質循環モデルの基礎概念
  3.3.1 基本ユニット
  3.3.2 生態系モデル
 3.4 砂浜海岸における物質生成・分解過程
  3.4.1 酸化分解
  3.4.2 還元分解
  3.4.3 脱窒素過程
  3.4.4 砂泥質の化学環境
 3.5 溶存物質と粒状物質の物質循環
  3.5.1 粒状物質の生成
  3.5.2 砂浜海岸の物質循環
 3.6 おわりに
  3.6.1 砂浜海岸の特徴
  3.6.2 今後の課題

【第4章 砂浜海岸のマクロファウナ】(梶原直人)
 4.1 はじめに
 4.2 新たな発想に基づく底質環境要因
 4.3 底質の硬度とは
 4.4 底質硬度と飽和水位(地下水位)
 4.5 ナミノリソコエビの分布と底質硬度
 4.6 サクションを軸とした砂浜海岸の底質環境
 4.7 冠水域(飽和域)における底質環境
 4.8 礫における底質環境
 4.9 今後の展開
 4.10 おわりに

【第5章 砂浜海岸の魚類】(井上隆)
 5.1 はじめに
 5.2 調査方法
 5.3 サーフゾーン魚類の特徴
  5.3.1 一般的な傾向
  5.3.2 日本の砂浜に出現する魚類
 5.4 魚類によるサーフゾーンの利用
  5.4.1 サーフゾーンの利用形態
  5.4.2 サーフゾーン魚類の類型化
 5.5 サーフゾーンの生息環境
  5.5.1 砂浜の微小地形
  5.5.2 海岸構造物の影響
 5.6 おわりに

【第6章 開放的な砂浜海岸である吹上浜での研究事例】(中根幸則)
 6.1 はじめに
 6.2 吹上浜の特徴
  6.2.1 代表的な3つの砂浜タイプ
  6.2.2 3つの砂浜タイプが存在する吹上浜
 6.3 砂浜タイプによって生息する魚類は異なるのか
 6.4 砂浜タイプ間の餌環境の違いが魚類の出現に影響を及ぼしているのか
 6.4.1 魚類は主に浮遊性と表在性の無脊椎動物を食べていた
  6.4.2 魚類は食性によって利用する砂浜タイプが異なる
  6.4.3 魚類の餌環境は砂浜タイプによって異なっていた
 6.5 砂浜タイプ間で魚食魚による小型魚への捕食圧は異なるのか
 6.6 おわりに

【第7章 生物にとっての健全な砂浜環境とは】(和田年史)
 7.1 はじめに
 7.2 砂浜海岸の侵食とサンドリサイクルの現状(山陰海岸の例)
 7.3 砂浜の生物とそれらの消失の現状
  7.3.1 砂浜に暮らす生きものたち
  7.3.2 砂浜生物の消失の現状
 7.4 健全な砂浜環境の指標生物「スナガニ」
  7.4.1 スナガニについて
  7.4.2 指標生物とは
  7.4.3 砂浜海岸の人的利用とスナガニの関係
  7.4.4 利用海岸と自然海岸での比較
  7.4.5 温暖化の指標としてのスナガニ類
 7.5 サーフゾーンにおける指標生物の探索
  7.5.1 海域の環境影響評価の必要性
  7.5.2 サーフゾーンの生物相と指標生物の候補
 7.6 これからの課題と展望
  7.6.1 基礎知見の充実から実践へ
  7.6.2 砂浜海岸の大切さを伝える取り組み
 7.7 最後に

【第8章 アカウミガメの保護活動を通してみる表浜の自然と保全】(田中雄二)
 8.1 表浜の四季
 8.2 表浜の自然と地理
 8.3 表浜の現状
 8.4 NPOの活動
  8.4.1 アカウミガメの保護活動
  8.4.2 堆砂垣
  8.4.3 表浜まるごと博物館
  8.4.4 環境教育と調査研究
  8.4.5 情報発信
 8.5 おわりに

【第9章 干潟保全の活動を通して見えてくる「砂浜」の存在】(足利由紀子)
 9.1 私たちのフィールド中津干潟
  9.1.1 中津干潟の自然の特徴
  9.1.2 中津干潟で展開する保全活動
 9.2 「干潟」から見た「砂浜」
  9.2.1 イメージが先行する日本人の「海岸」への理解
  9.2.2 干潟保全上障害となる「豊かな海」の概念
 9.3 干潟生物の立場から見た砂浜
  9.3.1 カブトガニの産卵の場
  9.3.2 さまざまな生物に利用される砂浜
  9.3.3 アサリ資源を支える要素
 9.4 沿岸の自然とともに歩んでいくために
  9.4.1 それぞれの土地に見合う保全のあり方
  9.4.2 市民の意識の醸成

【第10章 日本の海岸の成り立ちと現状】(清野聡子)
 10.1 日本の海岸と海岸法
  10.1.1 海岸環境の変化
  10.1.2 海岸法の改正とより包括的な法制度
  10.1.3 海岸事業での環境の位置づけ
 10.2 日本の海岸の人工化の現状
  10.2.1 人工化の現状
  10.2.2 砂浜海岸の人工化とハビタットの改変
 10.3 自然地形の役割
  10.3.1 砂浜と砂丘とラグーンはセットになった地形
  10.3.2 砂丘は自然のインフラ
 10.4 砂浜がもつ減災・防災の機能
  10.4.1 バッファー・ゾーンの必要性
  10.4.2 自然保護活動が守った砂丘
  10.4.3 海岸の松林
  10.4.4 伝説や伝統が示す自然保護と防災
 10.5 海岸の管理制度が抱える問題点と将来に向けて
  10.5.1 「線」の問題,「面」への転換,さらには「立体へ」
  10.5.2 より良い砂浜を残すために

BOX(1)海浜植生が有する砂浜の保全効果(加藤史訓)
BOX(2)離岸流に要注意(西隆一郎)
BOX(3)砂浜海岸の地下水(加茂崇)
BOX(4)砂浜海岸の多毛類(冨岡森理)
BOX(5)砂浜海岸のアミ類(野々村卓美)
BOX(6)魚類の調査方法(須田有輔)
BOX(7)吹上浜の十脚甲殻類(大富潤)

COLUMN(須田有輔)
砂浜に惹かれたきっかけ/砂浜調査の苦労/フィールド調査は学生の鍛錬の場

付表1(国内で研究が行われている外海に面した砂浜海岸で出現した魚類)
付表2(本書に登場する生物種名一覧)
引用文献
おわりに
索 引
執筆者紹介
★正誤表
掲載ページ/位置
(誤)
(正)
P.245 上から28行目(文献著者名)
森 圭一














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